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“定義”の外にいる若者たち ~ヤングアダルトケアラーとは~

支援調査大学生若者ケアラー

2023.08.08

“ヤングケアラー”という言葉が急速に普及し、彼らを支援していこうという社会的な取り組みが見られるようになった昨今、その言葉の定義によって、本来は対象に含まれるべきにも拘わらず、支援の枠組みから外れてしまう若者たちがいます。

 

“18歳の壁”をどう捉えるか

日本国内では、まだ「ヤングケアラー」に関する法令上の定義は存在していません。

しかし、厚生労働省などによれば、ヤングケアラーとは、本来は大人が担うようなケアを担う「18歳未満」の子どものことを指すとされています。

2022年からは成人年齢が18歳に引き下げられ、この「18」という数字は、大人と子どもとを分ける明確な境界となりました。

その一方で、2020年・21年に国が行った全国規模の調査*¹によれば、小学生の6・5%、中学生の5・7%、高校生の4・1%がヤングケアラーの状態にあることが報告されたのに加え、本来はヤングケアラーの定義から外れてしまう大学生の6.2%が、ヤングケアラーと同様の状態にあることが明らかになりました。

この中には、幼いときからずっとケアを担ってきた元ヤングケアラーも含まれており、ケア経験者の属性を年齢で線引きすることの難しさを物語っています。

 

※1 日本総合研究所 「令和 3 年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 ヤングケアラーの実態に関する調査研究 報告書」(令和4年3月)

 

枠組みから外れた「ヤングアダルトケアラー」たち

ヤングケアラー支援の先進国であるイギリスでは、そのような定義の枠組みから外れてしまった青年たちを支援の輪の中へと取り込む「ヤングアダルトケアラー」という概念が存在します。

主に、18歳から25歳頃までの大人への移行期にあたる青年ケアラーのことを指す名称で、イギリスでは最低でも、37万6000人のヤングアダルトケアラーが存在するとされています*²。

青年期の後半とも言えるこの期間は、受験や就職活動など、今後の人生の方向性を決める重要なイベントが待ち受けています。

しかしながら、この期間に家族のケアを担わざるを得ない若者は、本来であれば自分の将来のために費やせる時間を家族のケアに捧げなくてはならず、結果として、進学や就職などに大きな困難感を抱く傾向があります。

日本では、「ヤングケアラー」という概念の急速な認知度の高まりとは対照的に、「ヤングアダルトケアラー」に関してはあまり知られていません。

法律上は成人であっても、「子ども」から「大人」への移行期の狭間で揺れ続けている若者ケアラーの葛藤に対する抜け目のない支援を、忘れてはならないと言えます。

 

※2 CARERS TRUST “About young adult carers” より

 

定義の “曖昧さ” = 支援の “多様性” となり得るか

先に述べた通り、日本ではヤングケアラーに関する法令上の定義は存在せず、あくまでも一般的に普及している代表的な定義の説明として、「18歳未満」という言葉が頻繁に使用されています。

そのため、自治体によってはヤングケアラーの定義を18歳未満とせず、25歳頃や30歳頃までなど、かなり広いスパンで捉えており、従来は支援の枠組みから排除される傾向にある若者も対象に含め、独自の支援策を打ち出している地域もあります。

このような事実が意味することは、国内で「ヤングケアラー」という言葉の定義が明確に定められていないからこそ、多様な支援のあり方が生まれ始めているということです。

これは、ヤングケアラー支援の過渡期にある日本だからこそ持つ1つの独自性であるとも言えるでしょう。

ケアを行う子どもや若者は、それぞれ異なる社会的背景や属性を持ち、その支援のあり方も個人によって様々です。

ケアラーそれぞれの、そして支援の多様性を認め、その輪を広めていくこと。一方で、言葉の定義を丁寧に練り上げ、世の中や当事者に対し、より明確な形で支援の枠組みを示すこと。

国内のヤングケアラー支援をより発展させていくためには、両者の利点を活用し、支援の中に取り入れていくバランス感覚が必要となります。

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