ヤングケアラー × 学業
学業とケアとの両立の困難さ
ヤングケアラーが抱える困難感の1つとして、学業とケアとの両立の難しさが挙げられます。
2021年に埼玉県が行ったアンケート*¹によれば、その年の春に県内141の高校を卒業した生徒のうち、家族のケアを理由に希望進路を断念せざるを得なかったケアラーが、44名存在していました。
また同じ年に、全国の中学生を対象として行われた調査*²では、全日制高校2年生の4.1%が家族の誰かをお世話しており、その内の13%が宿題や勉強を行う時間がとれないと回答していたことが分かっています。さらに、家族のお世話をしている生徒のうち5.5%が、自分の希望進路を変更せざるを得ない状況に置かれている(もしくは既に変更した)ことも明らかになりました。
クラスメイトが課題に取り組んだり、塾に通ったりして、学業のために有効活用できる時間を、ヤングケアラーは家族のお世話に費やさなければならず、それが学業への困難感に結びついてしまうのです。
※1 NHK 「ヤングケアラー“希望進路断念”は44人 埼玉県公立高校アンケート」(2021年4月9日掲載)より
※2 三菱UFJリサーチ&コンサルティング「ヤングケアラーの実態に関する調査研究報告書」より
大学卒業率 × ヤングケアラー
海外ではヤングケアラーを対象とした大学卒業率の調査も行われています。
例えばイギリスで行われた調査*³では、家族等へのケアを行う16歳から29歳の若者は、そうでない者と比べて、平均して4割ほど大学卒業率が低く、特に1週間に35時間以上のケアを行っている若者に限定すると、その割合が86%も下がってしまうことが明らかになっています。
日本ではまだ、家族のケアを実施する若者の大学の進学率や卒業率を扱った詳細な調査は実施されていませんが、家族のケアが若者の学びに影響し、結果として、それが彼らの将来的な選択肢を狭めてしまうということは防ぐ必要があると言えます。
※3 UCL “Young carers less likely to graduate from university”(2023年5月22日掲載)より
ヤングケアラーへの学びのサポート
では、家族のケアを担う子供たちの学習面をどのように支援していけば良いのでしょうか。
イギリスのヤングケアラー支援のボランティア団体であるエジンバラ・ヤングケアラーズは、学校現場に向けたガイドライン*⁴の中で、ヤングケアラーの学業支援のために重要なポイントとして、以下のような点を挙げています。
・学校のスタッフがヤングケアラーに向けに、授業や家庭での課題の締め切りを柔軟に設定する。
・それぞれの学校が学習に対する更なる支援のため、家庭学習やアカデミックな学びに関するクラブ活動の場などを提供する。
・ヤングケアラーたちがより多くの教育の機会を得られるように、学校側から追加の支援を提供する。
・必要なときは家庭で授業が受けられるように整備するなど、家族のお世話を担う児童や生徒に対する複合的な学びのアプローチについて検討する。
・学校にヤングケアラーコーディネーターを配置するなど、家族のお世話を行う生徒たちの発達をサポートするために、外部の団体との協働を計画する。
しかし、上記のような環境整備を行うためには、制度面や人員面など、多くの課題をクリアしなければなりません。
近年、日本国内では、各地方自治体でヤングケアラーコーディネーターの配置等の施策が進んでいますが、こうした取り組みを学校現場等、多くのフィールドにも広げていけるよう、ヤングケアラーに関する認知の拡大や、更なる支援体制の拡充を図っていくことが必要となります。